Association of Japanese Residents in Lao P.D.R.



2008年9月号目次

・2008年度会長

・植樹祭

メコン河観測史上最高水位
ロンの新米の味は?
乾杯が始業ベル???
ラオスの経済・社会・産業基盤
第一回ラオス柔道選手権大会
日本人会テニス大会

コ  ラ  ム

ロンの新米の味は?


(焼畑をバックに村の若頭)
 9月といえば新米の季節。香り豊かな新米は思い出すだけでも幸せな気持ちになります。私は、ADRA Japanのスタッフとしてこちらに赴任するまで日本で野菜づくりをしていましたが、四年前までは小さな田んぼでお米も作っていました。自分で育てていると、新米を最初に口にする時はいつも緊張したものです。その年の出来具合が口の中で明らかになるからです。その年、晴れの日が多く、健康に育った稲のお米は炊いた時に粒離れが良く、口の中で一粒一粒が踊るように感じます。そして、甘みとうまみ。理想に近い天候で推移した時のお米の美味しさは、何のおかずもなしに、お米だけで三杯食べてしまうくらいです。

 自分のお米に対する思い入れがあるからこそ、お百姓たちは真夏の太陽が照りつける下でも、梅雨の雨が多い時期でも、手入れの労をいとわないのです。もっとも、最近の日本では、田植え直後の除草剤散布と畦専用の草刈り機が安価に普及したおかげで、草取り・草刈りの労苦から開放されました。それがために、生産者の平均年齢が六十歳を越えても、少ない生産者人口で日本の主食をつくり続けることが可能となっているわけです。

 ですので、ルアンナムター県ロン郡の事業地を見るにつけ、「こんなだだっ広い焼畑を、ここのお百姓さんたちは、いったいどうやって管理しているんだろう」と、いつも不思議な気持ちで一杯になります。僕も百姓駆け出しの数年、無農薬・無除草剤で米をつくったことがあったので、草取りの大変さは体で覚えています。こちらのあの広い焼畑を自分たちの手足だけで管理していることが、実感として理解できないのです。

 7月末に村へ事前調査に行った折、ある村では若い衆たちが話しに応じてくれました。村によっては、灌漑が機能していないために、以前いた村の片道二時間もある焼畑で自分たちの主食をつくらなければならないところもあると聞きました。その村の若い衆に聞くと、彼らの焼畑地はすぐ近くにあるとのこと。「それなら、連れて行って、見せてくれない?」と頼むと「おぉ、いいよ」と若頭。集落のある高台からいったん森の中へ降りていって、しばらく鬱蒼とした森のなかをと歩いて、上がっていくと、、、

 そこは小高い丘陵で、足元からむこうの、ずっとむこうの尾根まで、陸稲の緑色が大地を覆っていました。その美しさに言葉が出ませんでした。案内してくれた若頭は、「ほら、この太い木も、植え付け前にこうやって斧で切り倒したんだ。いやー、大変だったよ」と身振りで話してくれました。

 しばらく行くと番小屋があり、草取りをしていたおばちゃんたちが午後の日差しをさけて休憩していました。美しい焼畑を見て興奮していた僕は、「この広い畑を、草取りしていたんですか? ほんとに? 大変でしょ?」と身振りで話しかけていました。「うんうん、そうなのよ、大変よ、腰も痛いし!」と笑いながら、おばちゃんたちも答えてくれました。

すでに今頃、あの緑色に輝いていた稲は穂をつけはじめていることと思います。ここしばらくは、事業開始の準備のためにビエンチャンにおりましたが、黄金色に輝く山の風景と彼らの新米の美味しさを想像して、ロンの事業地に恋焦がれている毎日です。
小  出 (ADRA Japan)